

物流業界では、採用・定着・勤怠管理など、人事まわりの業務難易度が年々高まっているといわれています。名阪急配株式会社では、こうした業界構造に対応するため、人事制度設計やデータ整備に取り組んでいます。
同社は食品物流を中心に多数のセンターを運営しており、ドライバーや倉庫スタッフなど、多様な雇用形態の従業員を抱えています。最低賃金の改定により、給与水準に対する求職者の目も厳しくなっており、「条件の良い企業に移る」という流動性の高さを前提に、人材の継続的な確保が不可欠となっています。
また、各センターにおける働き方や運用ルールが異なることから、本部と現場の間で「管理基準のすり合わせ」を行う必要がありました。
本部では現場の勤務実態を正確に把握することが求められる一方、現場側も本部が設計した勤怠管理の仕組みを理解し、使いこなす必要があるため、運用には一定の難しさが伴っていました。
このような複雑な環境の中、名阪急配では2018年以降、雇用契約書の電子化や人事評価、年末調整、勤怠管理など、さまざまな領域でHR SaaSツールの導入を進め、個別最適を積み上げてきました。
こうした取り組みの蓄積が、のちに「情報の一元化と連携基盤の再構築」という全社的なプロジェクトへとつながっていきます。

名阪急配では2018年、入社手続きの電子化を目的として労務システムを導入しました。続く2019年には、タレントマネジメントSaaSを活用した人事評価制度の電子化を実施し、人事データベースの整備が本格化しています。
2020年には、外部委託先による年末調整処理でのトラブルを契機に、給与・税務対応のSaaSを導入。さらに2022年には、静脈認証による勤怠管理システムを導入するなど、現場起点でのデジタル整備を着実に進めてきました。
個別最適のツールは一定程度整備が進んだ一方で、各HR SaaSの設定やメンテナンスが属人化し、サービスが増えるほど管理が煩雑になるという課題も顕在化していました。
必要な情報が必要なときにしか更新されず、他の担当者が操作できないといった状況も発生していたことから、同社では「一つの正しい情報(正のデータベース)を持ち、そこから全体をつなげていく」という構想を描くようになります。
この背景には、将来的な人的資本経営の推進や生成AIの活用を見据えた情報基盤の重要性があります。
「人」に関する情報が一元管理されていることが、生成AIを用いた分析や意思決定の前提になるという認識のもと、データの精度と構造の整備に今から取り組むべきだと判断したといいます。
こうした構想を進める中で出会ったのが、HR共創プラットフォーム「PathosLogos」でした。
もともと、タレントマネジメントSaaSや勤怠管理SaaSなど複数のクラウドサービスを導入していた名阪急配にとって、「既存のSaaS群と連携可能な思想・構造であること」が導入検討における大きな決め手となりました。
当初は、情報のハブとなる場所が構築できるのではないかという期待に加え、単に業務をツールに合わせるのではなく、自社の業務や課題に寄り添いながら、設計・実装段階から一緒に仕組みをつくり上げていくという「共創」の姿勢にも共感があったといいます。
プロジェクトは現在も設計・検証段階にありますが、自社の業務量や理解度に応じて段階的に整備を進められる点が、現場からも好意的に受け止められています。
属人化やHR SaaSの乱立といった課題に対して、「つなげる」という視点で整理し直せたことは、生成AIと連携する統合データベースという将来的なゴールに向けた戦略的な第一歩と捉えられています。なお導入時期は、ちょうど生成AIへの注目が高まり始めた時期とも重なっており、社内全体における情報基盤への関心が高まる好機にもなりました。
名阪急配では現在、データ分析を「人を大切にする経営」へとつなげる取り組みも進めています。ウェルビーイングや健康経営の観点から、現場で働く従業員の声を可視化し、各種施策の改善につなげることを目的としています。
たとえば、同社では約5年前から臨床心理士と契約し、各センターへの定期訪問を実施しています。さらに2024年には、社員のエンゲージメントや心理的状態を可視化する「ウェルビーイング診断」の実証実験を開始。ストレスの兆候を早期に察知し、職場環境の改善へとつなげる取り組みが行われています。
同社は「明日も行きたくなる会社」というビジョンの実現に向け、従業員が何を求め、何を望んでいないのかをデータを通じて把握し、それに基づいた打ち手を講じていくことを人事の重要な役割と位置づけています。

HR SaaSの統合データベースの整備は、まだ始まったばかりであり、現在は全体構想の「一合目」に位置付けられています。現時点においては、給与計算などの業務に大きな支障はないものの、データの分析や応用といった段階にはまだ至っていない状況です。
今回の「PathosLogos」導入は、目の前の課題を解決するというよりも、「将来に向けた備え」としての意味合いが強い取り組みとされています。今後のHR SaaSの進化や情報基盤活用の流れに対応し、必要なタイミングで必要な整備が行える状態を整えていくことが目的です。
「データが分散していても、直ちに問題がなければ過度に懸念する必要はないと考えています。ただし、問題が発生してからでは対応が遅れる可能性があるため、何が問題になり得るのかを見極め、あらかじめ対処方針を明確にしておくことが重要だと感じています」と担当者は語ります。
人的資本経営、ウェルビーイング、生成AIといった、これからの時代に不可欠なテーマを、組織の「土台づくり」という視点から支えていく名阪急配の取り組み。その共創パートナーとして、「PathosLogos」もまた着実に進化を続けています。